ヘンリー5世

シェイクスピア劇について 驚くのは 描ききること。どの名作であっても 素晴らしい描写はある。しかしシェイクスピアは 神の時をとらえて その場を描ききる。紫式部の描写力は言うまでもないが、光源氏の臨終の場は描ききらない。山田洋治監督の「男はつらいよ」シリーズは素晴らしいが 虎さんの最後は描いていない。シェイクスピアは「ヘンリー5世」でフォルスタッフの最後を描ききる。

皇太子として放逸な半生を送ったヘンリー5世は、ひとたび王位につくと別人の如く、知略にとみ、責任を重んじ、勇猛果敢な名君となってゆく。放蕩時代の無頼な仲間とは一線を画す。「ヘンリー5世」では居酒屋の女将が臨終の模様を報告。巨漢の哀れな最後。

女将「・・・あの人は存外いい死に方をなすったわ。赤子のように、花を摘んだりしながら、指の先をみて笑みをうかべ・・神さま神さま神さまと 大きく言って ・・」

 just between twelve and one, even at the turning of the tide,    play with flowers and smile upon his fingers'ends    so a' cried out ’God, God, God’.

 

描いているシェイクスピアも 神の時 を意識。旧約聖書「伝道の書」篇には 人は神の時はわからない とあるのであるが・・