ジョン王

私はBBC制作のVTRで見ました。シェイクスピアの歴史劇はおもしろい。そうなんだ、そうなっていたのだ、と納得がいきます。マグナ・カルタ(大憲章)に調印した王様がジョン王。歴史に残る聡明な方かと思っていましたが、イギリスでの評判は良くないようです。ノルマンディー他の大陸の領土を失った王ですから。シェイクスピア原作にはマグナ・カルタ署名のテムズ河畔の場はありません。1899年制作の最初のシェイクスピア映画が「ジョン王」で短いサイレント映画ですがマグナ・カルタの場面があります。そのマグナ・カルタもジョン王は署名後にローマ教皇に頼んで無効を宣言してもらっています。それ以前に、ローマ教皇とはカンタベリー司教の叙任権で争い破門になり、結局ローマに屈服、イギリスを教皇領にしてもらったため、(教皇の配下の)ジョンに反抗しマグナカルタを突きつけた貴族たちが破門、マグナ・カルタは無効。教皇権とイギリスとかワカルのです。やがて王の決断でプロテスタント国家になってゆく、それがジョン王とローマ教皇とのやりとりでわかる面白さがあります。

 劇の場面で そうなんだ と思ったのは フランスの都市アンジールがジョン王の軍隊に城門を開いてくれなくて、フランス王にも城門を開かない。両軍とも引き分けねらいのサッカーの試合みたいな戦い方。そこにスペインの王女現れ、問題のアーサー王子と婚約プランもちあがる! そんなら平和に終われる? このオモシロさ 日本の時代劇では味わえない。 

 劇の冒頭が秀逸。フランス王の特使にジョン王の言葉、

「兵力に対しては兵力、流血に対しては流血、強制に対しては強制だ、とフランス王に復命するがいい」坪内逍遥訳はもたついている、

Here have we war for war and blood for blood.

そうなんだ わかりやすい! それに続いて

ジョン王「兵力があり、権力があるから大丈夫です」

母后「兵力の方を第一にしなさい。権利を主にするとあんたの為にも、わたしのためにも不利ですよ」 ジョン王の在り方をスッキリ描いている。

 

オモシロいと思うのは 母后の言う権利 王位継承権

王位継承権 第一位 アーサー 美しい少年  母コンスタンツ : ヘンリー2世の子の妻 フランス王を煽動

第二位 ジョン王 母エリナー ジョンは末っ子 故ヘンリー2世の妻

私生児 フィリップ リチャード獅子王落胤

 

 

アーサー 興味深い。殺されるのかな とずーと思いつつ見れば 歌舞伎や能の薄命の少年のようでありハラハラしてしまう。ハムレットも 行動しなかったらこんな感じか。オフィーリアの死に方(事故死)に扱いが似ているなど 先行作品としておもしろい。

この劇で躍動するのはフィリップ。活発な行動力と中庸の精神、イギリスの心。身分序列では下位にあるが遺伝子的にも能力的にも優れている。それを見て喝采する聴衆。民主主義的味わいの加わった時代劇。